先ほど、可視光のスペクトルと色との関係について見てきましたが、この光とは何でしょう。
 一言で言おうとすると苦心しますね。つまり、あの量子力学とかいう、日常世界から考えると、とても理解のできない話に触れない訳にはいかなくなるからです。
 で、これを避けて、かつ間違った表現にならないよう気を遣って一言でいうならば、光とは、「エネルギーと電磁界の波動を持った量子」なのです。 何ですか、これは?! 意味ががさっぱり判りませんね。 でも粒子とか、波とか決めつけていないところがポイントです。


 さて、高校の物理で学びますが、光は次のような性質を持っています。
・波の性質を持って屈折や反射、回折の現象を起こす。
・粒子のように、小分けにすると、これ以上小さくできない最小値(最小エネルギー単位)がある。
・電子は光のエネルギーで活性化し、不連続にエネルギー状態を変える。
・活性化した電子は、光を放出してエネルギーを失い、不連続にエネルギー状態を変える。
 そして、授業の結論として、光は波であるとか、粒子であるとか決めつけてはいけないということを言われます。

 私たちの良く知っている電子も同じような量子で、波のように回折を起こし、最小単位を持ち、おまけに、物質の中で存在している場所も特定できません。電子の存在位置は確率で表し、場所を決めつけてはいけないと言われます。
 これが量子力学の出発点であり、また、特定の性質を持った物質を自由に設計することができる基本の理論である「量子化学」の出発点です。日常では理解できない話ですが、原子・分子のミクロな世界の常識として、そのようになっていると妥協するしかなさそうです。
 しかし、本当にそれは真実なのか疑ったとき...、この常識を越えた世界が目で見られる現象があるということで納得しましょう。

 世の中で最も不活性な物質であるヘリウム、これは絶対0度でも液体でいられる唯一の物質です。これをどんどん冷やしていくと、4.2K(ケルビン)で液体になります。この液体ヘリウムⅠはそれで面白いことがたくさんあるのですが、ここでは更に冷やしてみましょう。
 2.17K以下になると、突然様子が変わります。超流動と言い、容器に入れた液体ヘリウムⅡ(L.HeⅡ、2.17K以下の液体ヘリウム)は、その流体抵抗が0になります。
 一旦回転させたL.HeⅡは永久に回転し続け(角運動量保存則を考慮するならば、Ⅱになる前に回転させた方がよさそうです)、流体の抵抗がなくなった結果、L.HeⅡは非常に薄い膜となって、ビーカーの壁をよじ登り、外側に流れてきます。(灯油ポンプの原理で低い方に流れる。)
 これは理想の潤滑剤!!?と思った方、答えは×です。L.HeⅡを使っては、潤滑剤が何もないのと同じになります。
 2.17K以上では、He原子が一個一個独立して運動し、壁面と衝突して抵抗を与えていたものが、この温度以下を境に、原子の集団で行動を起こすようになり、壁面との摩擦がなくなるものと説明されています。これはまさに、量子力学の世界がマクロに見えている現象なのです。(Bose-Einstein凝縮と言います。He原子の量子の世界を目の当たりにしているわけです。ここで、正確には、2.17K付近では、超流体と常流体が混ざった状態になっています。)
 この超流動、他にも熱が音速に近い速度で伝わる(0.5K付近では150m/sほどの速度で熱が伝わります。)など、信じられない現象があります。これは、温度差ができそうになると、そうならないように、超流体成分が流れて均一な温度になろうとすることが原因で、一端の温度を振動させると、音と同じような波(第二音波と呼ぶ)ができ、壁に反射して定在波ができたりもします。

 このL.HeⅡの中では、音は238m/sほどの速度で進みます。空気中の音速330m/sよりも少し遅い速度ですが、このL.HeⅡの音の伝搬についても際だった特性があります。
 光では周波数(振動数)が高いほど、高いエネルギーを持っているという話がありましたが、同じように音も高い周波数ほど大きなエネルギーを持っています。超音波で堅い石を砕いたりできるのもそうした高いエネルギーによるものです。しかし、通常の媒質中を伝わる音は、それが高い周波数(音程で言うなら高い音)であるほど、減衰が激しく遠くまで伝わらなくなります。エネルギーが高いために、途中で吸収されて、熱など別のエネルギーの形態に変わってしまうのです。ところが、L.HeⅡは流体抵抗がありませんから、これを減衰させる相手がなく、非常に高い周波数の音まで伝わります。私たちが標準に用いているAの音は440Hzですが、これを23オクターブ上げた音はおよそ3.5GHzとなります。この程度の音までは減衰せずにL.HeⅡの中を通って伝わっていることが観測されているようです。 理論から考えても、100GHz(音速238m/sから逆算すると音の波長2.38nmになります。)程度の周波数の音までは、減衰せずに伝わるようです。


 また、量子の世界の話に戻って、1/400K以下に冷やした液体ヘリウムⅡは、その中に生じた渦の強さが飛び飛びの値しか取ることができないという、まさに量子力学の現象を示すとのことです。

 というように、この量子の世界、波でもない、粒子でもない、そのような「光」や「電子」や「原子」といったものが存在している、それは事実だ、と妥協するしかなさそうです。


 ところで、筆者は学生時代から不思議なものが好きでありまして、研究課程では超電導を専門にやっておりました。 液体ヘリウムⅠで導体から超電導体を作って、電磁界や熱伝搬などを調べていましたので、この液体ヘリウムではずいぶんと遊ばせて(研究させて)いただいたものです。
 この超電導も、電子が同じように凝縮を起こし、流れる際に、原子に対して抵抗を持たなくなって現れる現象で、これも量子の世界がマクロに観測できるようになったものです。
 筆者が学生の頃は、液体窒素で超電導になるようなものは、まだ世の中に発見されておりませんでしたが、量子の世界もなんと簡単にその扉を開くようになったものだと思います。また、最近では、分子設計によって(例の量子化学を駆使しているのでしょうか)、銅などを含む特殊な有機物質が、10K付近で超電導になる、そんな自然界にはない物質まで作り出されているといった状況のようです。
 液体窒素温度程度で超流動になるようなもの(高温超流動)は現在発見されていませんが、超電導は電子対が凝縮したもの、超流動は原子が凝縮したものですから、高温超電導に続いて、こんな高温超流動みたいなものが出てきたら...わくわくしますね。(こんなことを言うと、ご専門の方には「何もわかっとらん」と怒られそうですけれど。電子と原子では全然質量が違いますから。また、L.N温度の超電導は電子の凝縮だけでは現象を説明できない面があるそうです。)

 いずれにしてもこの世界、まだまだこれから面白いことがたくさんありそうですね。


--- 要点(かんたんにいうと) ---
・光には海(うみ)の波(なみ)と同じ性質(せいしつ)があります。
・この波(なみ)の様子(ようす)と、見える色(いろ)には関係(かんけい)があります。
・自然(しぜん)には不思議な(ふしぎな)物質(ぶっしつ)があって、入れものに入れておくと、壁(かべ)を伝わって自然に(しぜんに)外に出てきてしまう液体(えきたい)があります。
・この不思議(ふしぎ)のわけは、量子力学(りょうしりきがく)という科学(かがく)を勉強(べんきょう)するとわかります。 わかるというよりも、こうなっていると考える(かんがえる)しかないような、本当だけれども理解(りかい)することがとても難しい(むずかしい)学問(がくもん)です。
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~不思議な色の世界~    解説

休憩になればよいのですけれど...

要旨は最後に記載されています。

2a-6 コーヒーブレーク 2
  現実に見える量子の不思議な世界

   ~ 量子力学を目で見てみよう ~