2d. 花の香りの正体 ~不思議な色の世界~ (図や写真をクリックすると拡大表示します。)
ヒトの記憶と「匂い」というものは、深いつながりがあると言われています。
今までほとんど忘れかけていたような遠い記憶、何の特徴もないありふれた光景の記憶などが、「ふと漂ってくる香りをきっかけにして鮮やかに甦ってきた」、という経験をお持ちの方も多いことと思います。 そして香りから呼び覚まされた記憶は、写真や言葉のきっかけから呼び覚まされたものとはまた違った
その場、その時の雰囲気、感情 を鮮明に伝えていることに気づかされることと思います。 呼び覚まされた光景、風景は何の変哲もないものでも、その時、その頃に特に感じていた感情に強く結びついていたりします。 楽しかったことに関係する場面、印象が呼び覚まされることが多いでしょうか?
きっかけとなる香り、匂いはいろいろです。 青葉の匂い、雨の匂い、土の匂い、潮の匂い、プールの消毒の匂い、花の香り、などなど。 人によって、それはそれはたくさんの種類の思い出の香りというものがあることと思います。
花の香りだけでも、それはたくさんの種類があって、それぞれに違った印象が結びついていたりします。 四季を彩る花の中には芳香にも優れたものがたくさんありますが、ある種の記憶と結びつきやすい強く印象的な香りを持った花としては、沈丁花、モクセイ、梅、羽衣ジャスミン、ゆり、くちなし、オシロイバナなどがあるでしょうか。 筆者は、ふと漂ってくるこのオシロイバナの香りに、もう遠い昔の幼い頃、晩夏に夕暮れまで外で遊んでいた何気ない光景がはっきりと見えてきたりします。 また、春暖かくなり日射しがまぶしくなり始めた頃に、甘い柔らかな香りを漂わせる羽衣ジャスミンに、ふと街中の花屋さんの前の光景が浮かんでくることがありますが、卒業・新入学の変わり目の時期だったからでしょうか、春が訪れた喜びの他に何か卒業・新入に関係する複雑な思いが甦ってきたりします。
そんな花の香りの元となっているのはどんなものなのでしょうか。
2d-1 香り、匂い
さて、本題に入る前に少し雑談ですが、「におい」を漢字で書くときにどのような文字を当てられるでしょうか。 辞書を引く あるいは PCで変換しますと、匂い
と 臭い がでてきます。 良い香りを におい と表現する場合、「匂い」の方を使います。 ふりがなをふる際は、におい よりも にほひ、 かおり
よりも かほり の方が良い香りに感じられるような気がしますね。(受験でこれをやると×になりそうなので、学生さんは注意してください。)
臭いの方は「くさい」とも読めるように、一般には悪臭系のにおいを表す際に使われます。 従って、良いにおいを表す際に、間違っても「臭い」を当てないように注意しないと、正反対の意味になってしまいます。 間違って、「良い臭い」などと書くと文脈が全くおかしくなってしまいまして、中には「よいくさい」などと読む人も出かねません。 なお「臭い臭い」は、同じ句の繰り返しを美しいとしない日本語の使い方から見るとあまり感心しませんが、誤った用法ではありません。 「くさいにおい」と読んでも、「くさいくさい」と読んでも間違いではありません。
変なことを書いてしまいましたので、気を取り直しまして、...それでは香気/においを表す英語にはどんなものがあるか見てみましょう。 辞書を引きますと、たくさんの単語がでてきます。 odor、scent、smell、fragrance、perfume、malodor(マロウドールと読むようです。)などが出てきますが、これらを良い香り順に並べるとどうなるでしょうか。
私はこの辺の英語ニュアンスは専門ではないのですが、辞書の訳文や、海外の植物カタログなどを見ているとなんとなく分かってきたりします。 良い香気順に並べてみましょう。(英語の先生様、ご指摘事項等ございましたらメールをください。)
1.perfume ・・・ かおり、芳香、香水 : 海外の花カタログでもこのperfumeはあまり多用しません。
特に芳香に優れたスイートピー、芳香性原種シクラメンなど限られた種類の際だっ
た花の香気を表す際に使っているようです。
2.fragrance ・・・ 芳香、かおり、香気 : 良い香気の花を表現する際に、カタログでは比較的良く
用いられています。 形容詞はfragrantです。
3.scent ・・・ におい、 (英)香水、 イギリス英語では香水も意味しますから、良い方のにおいを
表す際に用いられるようですが、一般的な「におい」全般にも使われるようです。
花のカタログでも、良い香りのものから、葉に特殊なかおりがあるものまで、最も多
用されており、やはり全般的に「良い香り系」を表す際に用いるようです。
例: apple scented foliage りんごのような香りの葉
4.odor ・・・ 香気、臭気、におい : 花のカタログでは、このodorは筆者が記憶する限りでは登場
しません。 (良い)香気、(臭い)臭気、使っている状況と併用する形容詞によって、
どちらの意味にも使われるようです。
5.smell ・・・ におい : におい を表す最も普通の語であるが、形容詞がないときはしばしば「悪臭」
の意味に用いる そうです。
6.malodor ・・・ 悪臭 : mal(悪い) + odor(におい) ですからまさに悪臭です。
なお、芳香性の植物種の学名にはよく odoratus やodorata(芳香性の意のラテン語)がつけられて
おり、原語のラテン語では odor も良い香り系の語だったのか などと想像したりします。
一つ忘れていました。 aroma、これは最近の流行にもなっていたりで、たいへんよく聞く芳香を表す
語ですね。 花の香り、ハーブ系の香りだけでなく、コーヒーの香りや香辛料、食品香料の香りなど
にも使われます。 aromaticは香料、芳香植物、形容詞では(飲食物などが)芳香のある、かんばしい
といった意味に使われています。
良い香りを表す方にもっぱら使われていますが、この aroma は上のどの辺に列べられるでしょうか。
筆者の感覚から言うと2と3の間くらいかと思いますが、飲食物などの系統の匂いも含まれていて、
ここで主題としている「(花などの)芳香性」の主旨では、このaromaという語は3と4の間くらいかも
しれません。
このようにいろいろ「におい」を表す言葉があり、匂いを持ったものが数多くありますが、花の香りは
何故か人の好む良い香りのものが多いですね。 本来花の香りは、花粉を媒介する昆虫などを引き
つけるためのものと考えられていますから、ほ乳類であるヒトにも快い香りと感じられることは大変
不思議なことのように思います。
2d-2 芳香のある花
人が花の香りを快いものと学習(進化)しているのか、それとも花が花粉を媒介する昆虫を引きつけるためのにおいが、たまたまヒトにも快く感じられているのか。 はたまた花、植物は色、形、香りに優れることで、ヒトを媒介にした進化を辿ったり、種を保存・繁殖したりする道を選択し始めたのか。... 400万年ほどの昔、われわれの祖先様、親戚様が手と頭を使い、猿とヒトの境目のような活動を始めたときから、...そんな進化の道を模索し始めた植物の種があってたとしても不思議はないでしょう。 蜜の代わりに、美しい花、香りの良い花を咲かせ、あるいは味が良く多収の実をつければ、種を蒔き、肥料を施し、害虫を退治し、雑草をとり、病気から守り、受粉までしてくれ、品種改良という超特急の進化を手伝い、できた種をまた蒔いてくれるという、昆虫にはとうてい真似のできない至れり尽くせり、こんな花の一生。 檻に閉じこめられた一生のような気もしますが、種を保存しつつ進化するという観点では、人間ほど優れたパートナーは他には見あたりません。
日本人に愛でられてあちこちに植えられ、種の繁栄として成功している桜、品種改良によって、原種からは想像もできないくらい美しくなっている花や、人工交配/遺伝子操作によって耐病性を得て大規模に栽培されている作物などを見ると、こうした植物が、「繁栄・種の保存のために人類を利用し始めている」という想像も、あながち間違ってはいないような気がしてなりません。
上の写真(ストックの花畑)、右の写真のストック、これは種子をまくと、八重の花株と一重の花株が半々に出てきます。 両方とも良い香りがありますが、八重の方は各輪の花が大きく、全体のボリュームもあって見栄えがするので、切り花として売られているのはもっぱら八重の方です。 しかし八重は花の雌しべが花弁に変化してできているため、種子ができません。 一重の方は一輪毎の花は小さく素朴な感じ(筆者らは、この愛らしい一重の方が好みです。)ですが、花数が多く、花の後に種子がとれます。
このストックなどにもそうした種の保存、繁殖の戦略を感じずにはいられません。 株の半数を敢えて種のとれない八重株にしてまでも、美しさと芳香を競い、一緒に成長する一重株から次の世代のため
の種子を残すことを考えているのです。
ストック(一重、八重)他
普通、植物は次の世代のための種子を残したり、幹・枝・根や球根に養分を残して次の年に備え
たりしますが、そうしたところに心配をしないですむ八重咲きのストックは、その花や香りを美しくす
るために自身の生涯の全力を注げばよいわけで、ストックという種が考えたのかは分かりませんが、
この方式はひとつの優れた選択であり、生き残りの戦略だと思います。
他にも八重の美しい花を多種多数みかけますが、その多くは雌しべが花弁に変化したもので、実生能力を欠いているものが多く見られます。 こうした草花、花木は一般に挿し芽、挿し木、株分けで増やしますが、ここまでして別の繁栄方法を模索しているのか?
と考えてしまいます。
このように、ヒトと植物はお互いに助け合って、あるいは利用しあって生き、進化していくような気がしています。
最近、品種改良によって花の色は鮮やかに、大輪に、形は優雅に、という傾向ですが、反面、筆者にとっては少し残念なことに、原種に素晴らしい芳香を持つ花の改良種、これらの花の素晴らしい芳香が、改良に伴って薄れつつあるように思います。 シクラメンも、スイートピーも、フリージアも、洋ランも、原種の中にはそれはそれは素晴らしい芳香を持ったものがあります。 そういう点に気をつけて見ていくと、改良種の中にも原種の素晴らしい芳香を受け継いでいるものを発見することができます。 そして筆者らは花屋さんで花を選ぶ際には、芳香に優れているかも一つの重要なポイントとして見て回っています。
四季、その季節毎にいろいろな花の香りが漂ってきますが、これらのいくつかは 香りに優れた花色々 でも取り上げています。 地域の寒暖差や花の品種によって差がありますが、各月の芳香花の代表は次のようなものがあるでしょうか。
1月 さざんか
2月 ろうばい、梅
3月 沈丁花、ジョンキルすいせん、ストック、ミモザアカシア、カロライナジャスミン
4月 羽衣ジャスミン、フリージア、ヒアシンス、エニシダ、水仙
5月 バラ、藤、茉莉花(ジャスミン)、タイサンボク、スイートピー、橙花
6月 ゆり、くちなし、チューベローズ(月下香)、エンゼルストランペット
7月 マダガスカルジャスミン、高砂ゆり
8月 オシロイバナ、ニコチアナ(花たばこ)、素馨(そけい、ジャスミン)
9月 夜香木、月下美人
10月 モクセイ(金モクセイ)、バラ
11月 銀モクセイ
12月 クリスマスローズ(芳香性種)、ヒイラギモクセイ
それぞれの花は、なぜかその季節の雰囲気にあった特徴のある香りを出しているように感じますが、その香気を科学的に分析すると、どれも数十~百種類を超える香気物質が微妙な割合で混合されて独特の香りを作り出していることが分かります。
2d-3 芳香物質と嗅覚
現在では、ヒトが芳香を感じるしくみはかなり解明されてきており、香気というものは、その元となる化学物質が鼻の嗅覚細胞に結合して嗅覚神経を刺激し、これが脳で分析されて香りを感じていることが分かっています。 筆者が子供の頃は、まだこの辺はよく分かっていなかったようです。 香りの元は各芳香物質の分子らしいというところまでは分かっていたらしいのですが、昔中学生の頃に読んだ本では、中には(その分子が感覚器に対して輻射する光・電磁波という意味でしょうか?)光が関係する
可能性も調べられていた というようなことが書かれていたように記憶していますし、香り分子がにおいを感じさせる詳細なしくみについては、よく分からないという状況だったようです。 (ただ、2006年現在でも、まだ香気を感じる仕組みはよく分かっていないことが多いようです。)
「2a-2 色とは」で記載したように、目が色を感じる仕組みは それぞれ赤、緑、青の3原色を感じる視覚細胞が存在し、それぞれの感じ取った赤、緑、青の強度比から脳内で処理されて、かくもたくさんの種類の色が感じられています。 従って色の原色は3つだけ、減法混色でも3つだけに絞ることができますが、嗅覚の方は、そうした3原色に対応するような
「原臭」なるものの存在は今のところ考えられておらず、多種多様の嗅覚細胞と、それらの細胞に刺激を与える多くの匂い分子の組み合わせ、そして一種の嗅覚細胞だけでなく、複数種の細胞に刺激を与える匂い分子の、極めて複雑で多種の刺激の組み合わせによって、いろいろな匂いが感じ取られていると言われています。 匂いのある物質は現在40万種ほども存在しているといわれ、また、個人によってにおいの感じ方には差があり、年齢を経るにつれて変化する、こうしたことも「原臭」を特定することが難しい理由一つのようです。 一方で、40種類くらいの代表香気から、かなりいろいろのにおいを作り出せるというような研究もあるようですが。
芳香、匂いを感じるためには、鼻の嗅覚細胞に結合する必要があることから、有香物質は
(1)揮発性があること
(2)水溶性 または 脂溶性 または アルコール可溶性であること
という条件があります。 揮発して鼻の中の嗅覚器官まで達しなければ匂わないということ、 嗅覚器官に達したら、そこで水分や脂肪分に溶けて(細胞壁を透過するために、特に脂溶性が重要)嗅覚神経に達し、これを刺激しなければ匂わないということです。
こうした条件を持っていることが必要ですが、もう一つ、有香性の物質の特徴として、「発香団」という化学構造を持ったものが多く、匂いと物質の化学構造には未だ完全な関連付けはされていませんが、ある程度の関連性が見られています。
以下に代表的な発香団を挙げてみます。
・アルコール類 -OH 例:エチルアルコール、 花香例ではフェニルエチルアルコール
・フェノール -OH 例:cis-ジャスモン(花香)
・ケトン >CO 例:オイゲノール(花香)
・アルデヒド -CHO 例:ホルムアルデヒド(刺激臭)、 花香例ではアニスアルデヒド
・カルボン酸 -COOH 例:酢酸(酢)
・エステル -COOR 例:酢酸エチル(果実香)、 花香例では安息香酸メチル
・ラクトン -CO-O- 例:ジャスミンラクトン(花香)
・エーテル -O- 例:ローズオキサイド(花香)
硫黄(S)、窒素(N)、燐(P)などを持ったものに強い匂いを持つものが多く(例:窒素Nを含むアントラニル酸メチル、強く甘い良い香りがある。)、これらを含む発香団もあるのですが、ここでは省略します。
なお、硫黄(S)や燐(P)を含むものは、(硫黄を含むコーヒーの香り成分など例外もありますが、)一般には悪臭性のものが多いようです。 特に燐(P)は殺虫剤などに含まれている化合物が多く、これらは悪臭性です。
2d-4 花の香りの正体
さて本題の花の香りの正体ですが、既に記述しているように、これらの花の香りは上記で挙げたような発香団(アルコール類、フェノール、ケトン、アルデヒド、エステル、ラクトン、エーテルなど)を持った物質で、揮発性、脂溶性(アルコール可溶性、水溶性)を持っています。 以下にそうした物質の名称、化学式、性質、構造(構造はリンクによって下方の表中の図に)、これを揮散してその芳香を放っている代表的な花
などを記述していきたいと思います。
(1) β-フェニルエチルアルコール
組成 C8H10O 分子量 122.17 融点 -27℃ 沸点 220℃ 密度 1.025、 常温で液体。 構造式からも、名前からも明らかなように、アルコールの一種である。 水よりやや重く、水に滴下すると下に沈んで油状の粒となる。 水に少し溶解し、およそ60容の水に1容積溶解する。
よってたくさんの水に少量滴下して沈んだ油状粒は、振っていると溶解して見えなくなり、これが溶解した水は新鮮みを帯びたバラのような匂いを持つ。 β-フェニルエチルアルコールはバラ油など多くの精油中に、バラの香気成分として含まれる。
香料、フレーバーとして用いられる。 また、殺菌作用も持ち、防腐剤としても用いられる。 フェネチルアルコール、ローズPなどとも呼ばれている。 新鮮で青みを帯びたバラの香気を持ち、調香時には自然なバラの香気、雰囲気を作り出すために重要な成分になる。 天然には、バラ、ヒアシンス、橙花、カーネーション、すずらん、沈丁花などの花の重要な香気成分として含まれている。
(2) ゲラニオール
組成 C10H18O 分子量 154.25 密度 0.881、 常温で油状の液体。 アルコールの一つである。 水に難溶でエタノールに可溶。 おだやかで甘く、優雅なバラの香気を有している。
少し柑橘系の香り系統が感じられる。 ローズ系調合香料、食品香料として用いられる。 異性体として、次のネロールが挙げられる。 フェニルエチルアルコールと並んで、バラの香気の特徴を作り出す重要な香気成分である。 バラ、橙花、月下香、イランイラン(熱帯の香料を採取する高木花)、すずらん、沈丁花などの花香に含まれている。
(3) ネロール
組成 C10H18O 分子量 154.25 沸点227℃ 密度 0.880、 常温で無色油状の液体。 構造式からもわかるように、ゲラニオールのcis型幾何異性体で、同様にアルコールの一つ。 多くの天然精油中に含まれる。 ゲラニオールよりもバラ香は少ないが、柑橘系の爽やかなみずみずしい香調を持っている。
新鮮なバラ香があり、香料に用いられる。 特にマグノリア系香料の基調材として用いられる。 バラ、橙花、月下香などに含まれている。
(4) l-シトロネロール
組成 C10H20O 分子量 156.27 沸点225℃ 密度 0.859、 常温で無色油状の液体で、OH基をもっており、アルコール。 水に難溶、エタノールに良く溶ける。
バラのような香りを持ち、人工バラ油の調合には欠くことができない。 石けんやあらゆる化粧品に応用される重要な香料の一つ。 ゲラニオールと良く調和しし、特にフローラルタイプの香料に用いられる。
(5) d-リナロール
組成 C10H18O 分子量 154.25 沸点200℃ 密度 0.873、 常温で無色油状の液体、OH基をもっており、アルコール。 含水エタノールに良く溶ける。 すずらんに類似の香気を持ち、やや柑橘系の調子を持っている。 沈丁花の甘い爽やかな香りに類似。 フローラル調、香粧品、石けんの香料として極めて重要。
(6) ファルネソール
組成 C15H26O 分子量 222.37 沸点263℃ 密度 0.884、 常温で無色油状の液体、OH基をもっており、アルコール。 グリーンノートの花香気を持っている。 橙花、シクラメン、バラ油など多くの精油に含まれている。 ライラックやシクラメンのような甘い花の香気を強調するために使用される。
種々の調合香料に用いられる。
(7) ローズオキサイド
組成 C10H18O 分子量 154.25 沸点182℃ 密度 0.87、 エーテルの一種。 フレッシュなグリーンノートのフローラル香を持つ。 ブルガリアローズ油から発見された微量成分。
高級石けん香料として貴重。
(8) β-ダマセノン
組成 C13H18O 分子量 190.28 密度 0.924 ケトンの一種。 ブルガリアローズに含まれる。 強いローズの香気を持っている。 ローズアブソリュートの優雅な甘い香りを出すキーとなる成分である。
香料、フレーバに少量用いられる。
(9) ダマスコン
組成 C13H20O 分子量 192.30 ケトンの一種。 ブルガリアローズから発見された。 お茶の葉にも含有されている。 プラム、ローズのフルーティフローラルの香気を有している。
(10) 酢酸フェニルエチル
組成 C10H12O2 分子量 164.21 沸点232℃ 密度 1.050、 エステルの一種。 ローズ、ハニーの香気を持つ液体。 多くの調合され、モモを思わせる特有の香気を持っている。
(11) 酢酸ベンジル
組成 C9H10O2 分子量 150.17 沸点150℃ 密度 1.059、 エステルの一種。 水に不溶、アルコールに溶ける。 天然ジャスミン香の主成分。
石けん香料、化粧品香料の需要が多く、食品香料にも用いられる。 人工ジャスミン香料の基調剤として非常に重要。 ジャスミン、ヒアシンス、くちなし花精油の主要成分。
(12) 酢酸リナリル
組成 C12H20O2 分子量 196.29 沸点115℃ 密度 0.89、 エステルの一種。 水に不溶、アルコールに溶ける。 人造花精油の調合に極めて重要。
ラベンダー油の主成分でもあり、調合香料、合成精油に広く用いられている。
(13) ベンジルアルコール
組成 C7H8O 分子量 108.14 沸点205.6℃ 密度 1.046、 アルコールの一種。 水に少し溶け(40mlに1ml程度)、アルコールには良く溶ける。 弱い甘い香りを持ち、ジャスミン、月下香の調香には欠かせない。 局所麻酔性と防腐性もあり、それぞれ1~3%、1~2%で使用されている。 化粧品、石けん、人造花精油フレーバーに用いられ、違った用途では筋肉、皮下注射の痛み止めの用途や、皮膚のかゆみ止めの用途にも使われている。
(14) cis-ジャスモン
組成 C11H16O 分子量 164.25 沸点248℃ 密度 0.94、 環状ケトンの一種。 ジャスミン属の香気成分。 フルーティなジャスミン香の淡黄色液体。 天然ジャスミン油に存在し、ジャスミンの香りを特徴づける重要な香気成分。 他に橙花油、ジョンキル油中にも存在する。 cis-ジャスモン、ジャスモン酸メチル、ジャスミンラクトンなどのジャスミン属の化合物は、花精油中に数%程度の微量しか含まれていないが、微量でもその芳香の特徴を良く表すことができ、これらの花を特徴づける重要な要素となっている。
(15) インドール
組成 C8H7N 分子量 117.15 融点52℃ 沸点254℃ 含窒素化合物。 無色板状結晶。 エタノールに易溶、熱水に可溶。 光や空気によって変化して、次第に赤褐色に変色する。 ジャスミン油、橙花油他、多くの白花に含有され、また、ジャスミンの葉、多くの食品、発酵食品にも含まれている。 濃度が高いと不快なにおい(※注)だが、希薄にすると特有の新鮮な花香を有する。 ジャスミンがほれ薬、媚薬とされる原因の物質であり、動物質のにおいを含んでいる。 ジャスミンを始め、多くのフローラル系調合香料に用いられる。 なお、植物のホルモンにインドール酢酸(IAA)というものがあり、このインドールの構造を含んでいる。 このホルモンは発根促進に寄与しており、植物はこのインドールを別の形で極めて重要な物質として利用している。
(※注: この濃度が高いときの不快臭は、調べると様々な表現がされており、初めてこの試薬の封を切るときは、どうやって開けるか考え戸惑いながら開封するものですが、それほど構えて対処するほどのものではありません。 筆者の感覚では、一般に言われているような怪しいものではなく、古い、昔の防虫剤のにおいに似ているように感じます。(最近の防虫剤は全く違う系統のにおいです。) この物質は古くから媚薬と呼ばれる類の薬に調合されてきており、インドールや媚薬でインタネット検索してみるといろいろ出てきます。 ジャスミンの眠気を誘うような香りの雰囲気も、これに起因するところがあるのでしょう。)
(16) アントラニル酸メチル
組成 C8H9O2N 分子量 151.17 融点24℃ 沸点237℃ 密度1.168 含窒素化合物、エステル。 水には難溶。 橙花の甘い香気を持っており、この化合物単独は非常に強い香りがある。 希釈するとぶどうのような特徴を持った香りが感じられ、濃い場合、この橙花やぶどうのような雰囲気の香気に、ウインターグリンのアクセントが感じられるようになる。 香料として良く用いられるアルデヒド類と反応してしまうので、扱いに考慮を要するが、花調合香料、石けん香料、グレープなどの食品香料、芳香剤などに利用されている。 天然には橙花、前述のイランイラン、ジャスミン、月下香、などに含まれている。 (単独で香気を感じる香気物質としては、筆者はこれが最も(香気は強いが)良い香りのように思います。 なお、このエステルの酸の方、窒素を含んだこのアントラニル酸という物質は、別名ビタミンL1という名でも呼ばれています。)
(17) p-クレゾール
組成 C7H8O 分子量 108.14 融点35.5℃ 沸点201.8℃ フェノール類。 クレゾール臭を持っているが、花香として極微量含んでいるものがある。 殺菌消毒剤としての作用も持つ。
(18) フェニルエチルシンナメート
組成 C17H16O2 分子量 252.31 融点65℃ エステル。 重いローズ調の香気を持った白色の結晶。
(19) ジャスモン酸メチル
組成 C13H20O3 分子量 226.32 密度1.022 エステル。 ジャスミン油の成分。 ジャスミンの甘い香気を持ち、調合香料に用いられる。
(20) ジャスミンラクトン
組成 C10H16O2 分子量 168.23 密度1.001 ラクトンの一種。 クチナシ、ジャスミンに存在。 ココナッツのような雰囲気を感じさせる香り。 クチナシやジャスミン、特に羽衣ジャスミンの甘く漂う香りの主香成分、キーノート。
(21) 安息香酸メチル
組成 C8H8O2 分子量 136.15 融点 -12.5℃ 沸点199.5℃ 密度1.0937 エステル。 水に不溶、エタノールには良く溶ける。 快香性の無色液体。 香気は強く、少量用いるようにする。 少しウインターグリンのような香りがある。 石けん香料、工業用香料などの香料や、溶媒として用いられる。 丁字油、イランイラン、月下香油に含まれる。
(22) 安息香酸ベンジル
組成 C14H12O2 分子量 212.25 融点 18.8℃ 沸点325℃ 密度1.112 エステル。 水に不溶、エタノールに可溶。 わずかに芳香りがあり、多くの花の精油に含まれる。 弱い張るサム、フローラルの香調。 さまざまな調合香料の保留剤として用いられ、人造ジャコウの溶剤としても重要。 月下香、イランイランに含まれる。
(23) アニスアルデヒド
組成 C8H8O2 分子量 136.15 融点 2℃ 沸点248℃ 密度1.12 アルデヒド。 水に微溶、エタノールに可溶。 ミモザの香調の液体。 フローラル系調合香料、石けん、香料に用いられる。
(24) d-ネロリドール
組成 C15H26O 分子量 222.37 沸点276℃ 密度0.880 セスキテルペンアルコール。 エタノールに可溶。 ファルネソールの異性体。 バラやリンゴの芳香を持ち、調合香料に用いられる。 橙花に含まれる。 フローラルグリーンな香りから、フレッシュな印象を付与するのに用いられる。
(25) オイゲノール
組成 C10H12O2 分子量 164.2 沸点253℃ 密度1.064 フェノール類。 水に不溶、エタノールに易溶。 無色液体だが、経時により着色する。 丁字に似た香気を持ち、カーネーション系調香の基礎となる。 スパイス様の強い香気があり、強い殺菌作用もある。 花香調合香料、オリエンタル調合香料、スパイス調合、殺菌防腐の用途に用いられる。
(26) 酢酸シトロネリル
組成 C12H22O2 分子量 198.31 沸点229℃ 密度0.895 エステル。 水にはほとんど溶けない。エタノールに可溶。 バラなどの花精油の調合剤として有用。 ローズ、ラベンダー、スズランなどの調合、アップル、グレープ、レモンなどのフレーバの調合に用いられる。 石けん、洗剤の着香にも用いられる。
(27) イオノン
組成 C13H20O 分子量 192.3 沸点121℃ 密度0.9288 ケトン、環状テルペノイド。 スミレの花香に似た芳香を持ち、香料として広く用いられる。 ミカン科Boronia
megastigmaの精油中に存在する。 アルコールで希釈すると、著しく新鮮なスミレの香気になる。 ビタミンAの合成原料としても使用される。 α型とβ型があり、α-イオノンがフローラルで最も好まれ、β-イオノンはややウッディーな香調がある。 α型は濃硫酸によってβ型に変換され、β型はアルコールカリ、ナトリウムアルコキシドで処理することにより、α型に変換される。
(28) γ-デカラクトン
組成 C10H18O2 分子量 170.25 密度0.952 ラクトン。 金モクセイ、クチナシなどの花精油に含まれる。 フルーティでピーチのような香りがある。
(29) リナロールオキサイド
組成 C10H18O2 分子量 170.25 密度0.968 エーテル。 グリーンな香気の液体。 多くの天然物、精油に微量含まれる。
(30) cis-3-ヘキセノール
組成 C6H12O 分子量 100.16 沸点156℃ 密度0.8495 アルコール。 木の葉、野菜、果実、ハーブ油などに含まれる無色液体。 グリーン系のベースとして様々な調合香料に広く用いられ、重要。 香水にも使われている。 青葉アルコールとも呼ばれ、葉の青くさい香りの本体。
(31) シンナミックアルコール
組成 C9H10O 分子量 134.18 融点33℃ 沸点257.5℃ 密度1.0338 アルコール。 白色針状結晶。 ヒアシンス様の優雅な香気を有する。 花精油香料の調合に、フレグランス商品や石けんにも用いられる。
(32) サリチル酸ベンジル
組成 C14H12O 分子量 228.25 融点24℃ 沸点300℃ 密度1.176 エステル。 わずかに甘い香りを持ち、花香料の保留剤として用いられる。 多くの天然精油中に存在する。 フローラル、スパイシー系の香料保留剤として使用される。
(33) カンファー
組成 C10H16O 分子量 152.24 融点179.8℃ 沸点204℃ 密度0.99 ケトン。 クスノキの精油中に大量に含まれる。 ショウノウ。 防虫剤として使われる。 特有のショウノウのにおいがある。 カンフル剤というのもこれ。
(34) α-ターピネオール
組成 C10H18O 分子量 154.25 融点31℃ 沸点219℃ 密度0.9338 アルコール。 ライラック様の芳香があり、ライラック、すずらんなどの香料に用いられる。 防臭剤、石けん香料にも使用される。
(35) γ-ターピネン
組成 C10H16 分子量 136.24 沸点173.5℃ 密度0.838 モノテルペン。 多くの天然精油中に存在する。 シトラス様の香気と芳香を有する。
(36) α-ピネン
組成 C10H16 分子量 136.24 沸点155℃ 密度0.8891 テルペン。 無色液体で、テレピン油の主成分。 松のにおいがある。 テルピネオールの合成原料。
(37) cis-オシメン
組成 C10H16 分子量 136.24 密度0.800 モノテルペン。 シソ科、ミカン科、クスノキ科から単離されたモノテルペン。エタノールに可溶。
(38) ベンズアルデヒド
組成 C7H6O 分子量 106.12 融点 -26℃ 沸点179℃ 密度1.050 アルデヒド。 水350mlに1ml溶け、エタノールには易溶。 アーモンドオイル、モモの芯の精油に含まれる。 甘いアーモンドの香気を持つ。 調香、食品香料としては少量しか使わない。
(39) 酢酸エチル
組成 C9H8O2 分子量 88.11 融点 -83.6℃ 沸点77.1℃ 密度0.902 エステル。 水100mlに8ml溶ける。 パイナップル、酒などの芳香成分。 果実エッセンスとして用いられる。 塗料や接着剤溶剤としても用いられる。 フルーツフレーバとして最も一般的に用いられる。
(40) 酢酸イソアミル
組成 C7H14O2 分子量 130.19 沸点142℃ 密度0.876 エステル。 水に難溶、エタノールに自由に混和する。 果実エッセンスに使用される。 強いバナナ香があり、希釈すると洋梨様の香気がある。 バナナフレーバ、梨のフレーバとして大量に用いられ、フルーツアロマとして用いられる。 バナナ、リンゴの芳香成分。
(41) フェニルアセトアルデヒド
組成 C8H8O 分子量 120.15 沸点195℃ 密度1.0319 アルデヒド。 ヒアシンスの香気がある。 重合しやすく、通常50%フタル酸ジエチル溶液として扱われる。 フタル酸ジエチルは、組成 C12H14O4 分子量 222.24 沸点298℃ 密度1.12 ほとんど無香でわずかに果実様の香りがある。 粘膜に刺激性があり、高濃度で麻酔性もある。
(42) アニスアルコール
組成 C8H10O2 分子量 138.17 融点24℃ 沸点259℃ 密度1.1129 アルコール。 水に難溶、エタノールに易溶。 バニラやアニスシード中に存在する。 軽い花香を持ち、ライラック、クチナシ、ジャスミン系の調合香料に用いられる。
以上をまとめ、どのような花にはどんな成分が含まれているかをまとめたものが以下の表です。 表の行、列の数の都合から横に花の名前を並べており、少々見にくいですが、縦に辿ってみてください。
いくつかの花に共通して登場する芳香物質は、それぞれの花に共通した香りを考えると、その香りが想像されます。 例えば、d-リナロールは多くの花に共通して含まれていますが、じんちょうげ のあの「すっとした」目の覚めるような爽やかな香気の主体です。 また、ジャスミンラクトンは羽衣ジャスミン(通常言うジャスミンとは少し異なる種です。)の特徴となるキー芳香成分で、くちなし のあの甘い香りを演出する重要な成分であったりもします。 アントラニル酸メチル はジョンキルすいせん、橙花、グレープに共通して含まれ、これらの甘い優れた芳香を特徴付けるキーとなる芳香成分です。 他にジャスミン、月下香、イランイラン、くちなし
にもこれらを特徴づける成分として含まれています。
なお、以下に挙げた「花の芳香成分となっている物質」は、当然のことながら、さまざまな香水や石けん香料、芳香剤などに含まれ、重要な香気成分として利用されています。
ただし、こうした香水などの「人が調合した香料」は、天然にはない化学合成の複雑な物質や、もっと多くの種類の芳香物質を調合して作られています。 (天然の花も、以下物質よりも、更に多くの種類の芳香物質を使って、その香調を作り出しています。) こうした天然にはない(より優れた)芳香を作り出すのが調香師さんの仕事です。
しかし、こうした天然に存在する物質だけを絶妙に調合して、自然の花と同じ香調を作り出すのも極めて困難なことと思います。 なかなか、天然の花の新鮮な香りというものは、その季節のみ、自然に開花した花からしか得難いものなのではないかというように思います。
バラ | ジャスミン |
ジョンキルすいせん |
ヒアシンス |
橙花 |
ミモザ |
月下香 |
イランイラン |
キンモクセイ |
カ|ネ|ション |
ラベンダ| |
ライラック |
すずらん |
グレ|プ |
ゆり |
くちなし |
じんちょうげ |
バナナ果実 |
スミレ |
|
(1) β-フェニルエチルアルコール | □ | □ | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||
(2) ゲラニオール | ◎ | レ | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||
(3) ネロール | レ | レ | レ | ||||||||||||||||
(4) l-シトロネロール | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||||
(5) d-リナロール | レ | レ | レ | レ | レ | レ | レ | レ | レ | レ | レ | ◎ | |||||||
(6) ファルネソール | レ | レ | レ | レ | レ | ||||||||||||||
(7) ローズオキサイド | レ | レ | |||||||||||||||||
(8) β-ダマセノン | レ | ||||||||||||||||||
(9) ダマスコン | レ | ||||||||||||||||||
(10) 酢酸フェニルエチル | レ | ||||||||||||||||||
(11) 酢酸ベンジル | □ | レ | レ | レ | レ | ||||||||||||||
(12) 酢酸リナリル | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||||
(13) ベンジルアルコール | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||||
(14) cis-ジャスモン | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||||
(15) インドール | ◎ | レ | レ | レ | |||||||||||||||
(16) アントラニル酸メチル | レ | ◎ | ◎ | レ | レ | ◎ | レ | ||||||||||||
(17) p-クレゾール | レ | ||||||||||||||||||
(18) フェニルエチルシンナメート | レ | ||||||||||||||||||
(19) ジャスモン酸メチル | レ | ||||||||||||||||||
(20) ジャスミンラクトン | ◎ | レ | レ | ||||||||||||||||
(21) 安息香酸メチル | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||||
(22) 安息香酸ベンジル | レ | レ | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||
(23) アニスアルデヒド | ◎ | レ | |||||||||||||||||
(24) d-ネロリドール | レ | レ | レ | ||||||||||||||||
(25) オイゲノール | レ | レ | レ | レ | レ | ||||||||||||||
(26) 酢酸シトロネリル | レ | レ | |||||||||||||||||
(27) イオノン | レ | レ | ◎ | ||||||||||||||||
(28) γ-デカラクトン | レ | ||||||||||||||||||
(29) リナロールオキサイド | レ | ||||||||||||||||||
(30) cis-3-ヘキセノール | レ | レ | レ | レ | |||||||||||||||
(31) シンナミックアルコール | レ | レ | レ | ||||||||||||||||
(32) サリチル酸ベンジル | レ | ||||||||||||||||||
(33) カンファー | レ | ||||||||||||||||||
(34) α-ターピネオール | レ | レ | レ | ||||||||||||||||
(35) γ-ターピネン | レ | ||||||||||||||||||
(36) α-ピネン | レ | ||||||||||||||||||
(37) cis-オシメン | レ | レ | レ | ||||||||||||||||
(38) ベンズアルデヒド | レ | ||||||||||||||||||
(39) 酢酸エチル | レ | ||||||||||||||||||
(40) 酢酸イソアミル | ◎ | ||||||||||||||||||
(41) フェニルアセトアルデヒド | |||||||||||||||||||
(42) アニスアルコール |
No. | 化学式、構造、化学緒元など (↓下図をクリックすると拡大表示します。) |
化学式、構造、化学緒元など (↓下図をクリックすると拡大表示します。) |
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1 2 |
β-Phenylethyl alcohol β-フェニルエチルアルコール 水よりやや重く、水に滴下すると下に沈んで油状の粒となる。 水に少し溶解し、およそ60容の水に1容積溶解する。 これが溶解した水は新鮮みを帯びたバラのような匂いを持つ。 バラ油など多くの精油中に、バラの香気成分として含まれる。 香料、フレーバーとして用いられる。 また、殺菌作用も持ち、防腐剤としても用いられる。 フェネチルアルコール、ローズPなどとも呼ばれている。 新鮮で青みを帯びたバラの香気を持ち、調香時には自然なバラの香気、雰囲気を作り出すために重要な成分になる。 天然には、バラ、ヒアシンス、橙花、カーネーション、すずらん、沈丁花などの花の重要な香気成分として含まれている。 |
Geraniol ゲラニオール 常温で油状の液体。 水に難溶でエタノールに可溶。 おだやかで甘く、優雅なバラの香気を有している。 少し柑橘系の香り系統が感じられる。 ローズ系調合香料、食品香料として用いられる。 異性体としてはネロールが挙げられる。 フェニルエチルアルコールと並んで、バラの香気の特徴を作り出す重要な香気成分である。 バラ、橙花、月下香、イランイラン(熱帯の香料を採取する高木花)、すずらん、沈丁花などの花香に含まれている。 |
3 4 |
Nerol ネロール 常温で無色油状の液体。 ゲラニオールのcis型幾何異性体。 多くの天然精油中に含まれる。 ゲラニオールよりもバラ香は少ないが、柑橘系の爽やかなみずみずしい香調を持っている。 新鮮なバラ香があり、香料に用いられる。 特にマグノリア系香料の基調材として用いられる。 バラ、橙花、月下香などに含まれている。 |
Citronellol l-シトロネロール 常温で無色油状の液体で、アルコールの一種。 水に難溶、エタノールに良く溶ける。 バラのような香りを持ち、人工バラ油の調合には欠くことができない。 石けんやあらゆる化粧品に応用される重要な香料の一つ。 ゲラニオールと良く調和しし、特にフローラルタイプの香料に用いられる。 |
5 6 |
Linalool d-リナロール 常温で無色油状の液体、OH基をもっており、アルコール。 含水エタノールに良く溶ける。 すずらんに類似の香気を持ち、やや柑橘系の調子を持っている。 沈丁花の甘い爽やかな香りに類似。 フローラル調、香粧品、石けんの香料として極めて重要。 |
Farnesol ファルネソール 常温で無色油状の液体、アルコールの一種。 グリーンノートの花香気を持っている。 橙花、シクラメン、バラ油など多くの精油に含まれている。 ライラックやシクラメンのような甘い花の香気を強調するために使用される。 種々の調合香料に用いられる。 |
7 8 |
Rose_oxide ローズオキサイド エーテルの一種。 フレッシュなグリーンノートのフローラル香を持つ。 ブルガリアローズ油から発見された微量成分。 高級石けん香料として貴重。 |
Damascenone β-ダマセノン ケトンの一種。 ブルガリアローズに含まれる。 強いローズの香気を持っている。 ローズアブソリュートの優雅な甘い香りを出すキーとなる成分である。 香料、フレーバに少量用いられる。 |
9 10 |
Damascone ダマスコン ケトンの一種。 ブルガリアローズから発見された。 お茶の葉にも含有されている。 プラム、ローズのフルーティフローラルの香気を有している。 |
Phenylethyl acetate 酢酸フェニルエチル エステルの一種。 ローズ、ハニーの香気を持つ液体。 多くの調合され、モモを思わせる特有の香気を持っている。 |
11 12 |
Benzyl acetate 酢酸ベンジル エステルの一種。 水に不溶、アルコールに溶ける。 天然ジャスミン香の主成分。 石けん香料、化粧品香料の需要が多く、食品香料にも用いられる。 人工ジャスミン香料の基調剤として非常に重要。 ジャスミン、ヒアシンス、くちなし花精油の主要成分。 |
Linalyl acetate 酢酸リナリル エステルの一種。 水に不溶、アルコールに溶ける。 人造花精油の調合に極めて重要。 ラベンダー油の主成分でもあり、調合香料、合成精油に広く用いられている。 |
13 14 |
Benzyl alcohol ベンジルアルコール 水に少し溶け(40mlに1ml程度)、アルコールには良く溶ける。 弱い甘い香りを持ち、ジャスミン、月下香の調香には欠かせない。 局所麻酔性と防腐性もあり、それぞれ1~3%、1~2%で使用されている。 化粧品、石けん、人造花精油フレーバーに用いられ、違った用途では筋肉、皮下注射の痛み止めの用途や、皮膚のかゆみ止めの用途にも使われている。 |
cis-Jasmone cis-ジャスモン ジャスミン属の香気成分。 フルーティなジャスミン香の淡黄色液体。 天然ジャスミン油に存在し、ジャスミンの香りを特徴づける重要な香気成分。 他に橙花油、ジョンキル油中にも存在する。 cis-ジャスモン、ジャスモン酸メチル、ジャスミンラクトンなどのジャスミン属の化合物は、花精油中に数%程度の微量しか含まれていないが、微量でもその芳香の特徴を良く表すことができ、これらの花を特徴づける重要な要素となっている。 |
15 16 |
Indole インドール 無色板状結晶。 エタノールに易溶、熱水に可溶。 光や空気によって変化して、次第に赤褐色に変色する。 ジャスミン油、橙花油他、多くの白花に含有され、また、ジャスミンの葉、多くの食品、発酵食品にも含まれている。 濃度が高いと不快なにおいだが、希薄にすると特有の新鮮な花香を有する。 ジャスミンがほれ薬、媚薬とされる原因の物質であり、動物質のにおいを含んでいる。 ジャスミンを始め、多くのフローラル系調合香料に用いられる。 |
Methyl anthranilate アントラニル酸メチル 水には難溶。 橙花の甘い香気を持っており、この化合物単独は非常に強い香りがある。 希釈するとぶどうのような特徴を持った香りが感じられ、濃い場合、この橙花やぶどうのような雰囲気の香気に、ウインターグリンのアクセントが感じられるようになる。 香料として良く用いられるアルデヒド類と反応してしまうので、扱いに考慮を要するが、花調合香料、石けん香料、グレープなどの食品香料、芳香剤などに利用されている。 天然には橙花、前述のイランイラン、ジャスミン、月下香、などに含まれている。 |
17 18 |
Cresol p-クレゾール クレゾール臭を持っているが、花香として極微量含んでいるものがある。 殺菌消毒剤としての作用も持つ。 |
Phenylethyl cinnamate フェニルエチルシンナメート 重いローズ調の香気を持った白色の結晶。 |
19 20 |
Methyl jasmonate ジャスモン酸メチル ジャスミン油の成分。 ジャスミンの甘い香気を持ち、調合香料に用いられる。 |
Jasmin lactone ジャスミンラクトン クチナシ、ジャスミンに存在。 ココナッツのような雰囲気を感じさせる香り。 クチナシやジャスミン、特に羽衣ジャスミンの甘く漂う香りの主香成分、キーノート。 |
21 22 |
Methyl benzoate 安息香酸メチル 水に不溶、エタノールには良く溶ける。 快香性の無色液体。 香気は強く、少量用いるようにする。 少しウインターグリンのような香りがある。 石けん香料、工業用香料などの香料や、溶媒として用いられる。 丁字油、イランイラン、月下香油に含まれる。 |
Benzyl Benzoate 安息香酸ベンジル 水に不溶、エタノールに可溶。 わずかに芳香りがあり、多くの花の精油に含まれる。 弱い張るサム、フローラルの香調。 さまざまな調合香料の保留剤として用いられ、人造ジャコウの溶剤としても重要。 月下香、イランイランに含まれる。 |
23 24 |
Anis aldehide アニスアルデヒド 水に微溶、エタノールに可溶。 ミモザの香調の液体。 フローラル系調合香料、石けん、香料に用いられる。 |
Nerolidol d-ネロリドール エタノールに可溶。 ファルネソールの異性体。 バラやリンゴの芳香を持ち、調合香料に用いられる。 橙花に含まれる。 フローラルグリーンな香りから、フレッシュな印象を付与するのに用いられる。 |
25 26 |
Eugenol オイゲノール 水に不溶、エタノールに易溶。 無色液体だが、経時により着色する。 丁字に似た香気を持ち、カーネーション系調香の基礎となる。 スパイス様の強い香気があり、強い殺菌作用もある。 花香調合香料、オリエンタル調合香料、スパイス調合、殺菌防腐の用途に用いられる。 |
Citronellyl acetate 酢酸シトロネリル 水にはほとんど溶けない。エタノールに可溶。 バラなどの花精油の調合剤として有用。 ローズ、ラベンダー、スズランなどの調合、アップル、グレープ、レモンなどのフレーバの調合に用いられる。 石けん、洗剤の着香にも用いられる。 |
27 28 |
Ionone イオノン スミレの花香に似た芳香を持ち、香料として広く用いられる。 ミカン科Boronia megastigmaの精油中に存在する。 アルコールで希釈すると、著しく新鮮なスミレの香気になる。 ビタミンAの合成原料としても使用される。 α型とβ型があり、α-イオノンがフローラルで最も好まれ、β-イオノンはややウッディーな香調がある。 |
Decalactone γ-デカラクトン 金モクセイ、クチナシなどの花精油に含まれる。 フルーティでピーチのような香りがある。 |
29 30 |
Linalool oxide リナロールオキサイド グリーンな香気の液体。 多くの天然物、精油に微量含まれる。 |
Hexenol cis-3-ヘキセノール 木の葉、野菜、果実、ハーブ油などに含まれる無色液体。 グリーン系のベースとして様々な調合香料に広く用いられ、重要。 香水にも使われている。 青葉アルコールとも呼ばれ、葉の青くさい香りの本体。 |
31 32 |
Cinnamic alcohol シンナミックアルコール 白色針状結晶。 ヒアシンス様の優雅な香気を有する。 花精油香料の調合に、フレグランス商品や石けんにも用いられる。 |
Benzyl salicylate サリチル酸ベンジル わずかに甘い香りを持ち、花香料の保留剤として用いられる。 多くの天然精油中に存在する。 フローラル、スパイシー系の香料保留剤として使用される。 |
33 34 |
Camphor カンファー クスノキの精油中に大量に含まれる。 ショウノウ。 防虫剤として使われる。 特有のショウノウのにおいがある。 カンフル剤というのもこれ。 |
Terpineol α-ターピネオール ライラック様の芳香があり、ライラック、すずらんなどの香料に用いられる。 防臭剤、石けん香料にも使用される。 |
35 36 |
Terpinene γ-ターピネン 多くの天然精油中に存在する。 シトラス様の香気と芳香を有する。 |
Pinene α-ピネン 無色液体で、テレピン油の主成分。 松のにおいがある。 テルピネオールの合成原料。 |
37 38 |
Ocimene cis-オシメン シソ科、ミカン科、クスノキ科から単離されたモノテルペン。エタノールに可溶。 |
Benzaldehide ベンズアルデヒド 水350mlに1ml溶け、エタノールには易溶。 アーモンドオイル、モモの芯の精油に含まれる。 甘いアーモンドの香気を持つ。 調香、食品香料としては少量しか使わない。 |
39 40 |
Ethyl acetate 酢酸エチル 水100mlに8ml溶ける。 パイナップル、酒などの芳香成分。 果実エッセンスとして用いられる。 塗料や接着剤溶剤としても用いられる。 フルーツフレーバとして最も一般的に用いられる。 |
Isoamyl acetate 酢酸イソアミル 水に難溶、エタノールに自由に混和する。 果実エッセンスに使用される。 強いバナナ香があり、希釈すると洋梨様の香気がある。 バナナフレーバ、梨のフレーバとして大量に用いられ、フルーツアロマとして用いられる。 バナナ、リンゴの芳香成分。 |
41 42 |
Phenylacetaldehide フェニルアセトアルデヒド ヒアシンスの香気がある。 重合しやすく、通常50%フタル酸ジエチル溶液として扱われる。 |
Diethyl phthalate フタル酸ジエチル ほとんど無香でわずかに果実様の香りがある。 粘膜に刺激性があり、高濃度で麻酔性もある。 |
43 44 |
Anis alcohol アニスアルコール 水に難溶、エタノールに易溶。 バニラやアニスシード中に存在する。 軽い花香を持ち、ライラック、クチナシ、ジャスミン系の調合香料に用いられる。 |
Indoleacetic acid インドール酢酸(植物ホルモン) このホルモン(インドール酢酸、IAA)は発根促進に寄与する植物ホルモンで、植物はこれを極めて重要な物質として利用している。 IAAはこのインドールの構造を含んでいる。 |
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