~不思議な色の世界~    解説

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2a-3 色と電子の不思議な関わり

 2a-3-1 光とは

--- 要点(かんたんにいうと) ---
・光は電磁波(でんじは)というものの一部(いちぶ)で、X線(エックスせん)や、電子レンジ(でんしレンジ)で使うマイクロ波(は)、テレビの電波(でんぱ)もその仲間(なかま)です。
・光は電子(でんし)を振動(しんどう)させて、分子(ぶんし)を回転(かいてん)させたり、振動(しんどう)させたり、分子(ぶんし)を分解(ぶんかい)したり、いろいろな作用(さよう)をします。
・電子(でんし)がエネルギーを外に出す(だす)とき、光のエネルギーとして放出(ほうしゅつ)します。
・光の波長(はちょう)と光のエネルギーには関係(かんけい)があります。 つまり、色と電子(でんし)のエネルギーには、密接な(みっせつな)関係(かんけい)があります。
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 先ほど、2a-2-2で「光のスペクトル」と題して、色と光の波長の関係を見ましたが、そもそも光とは何なのでしょう。そして光はどういう時に、どこから出てくるのでしょう。

 光のスペクトルでは、400nmから700nmの可視光の部分について触れましたが、もう少し広い意味で光という場合、この可視光の両外側にも光の領域があります。紫の外側には紫外線という光が、赤の外側には赤外線(近赤外と遠赤外があります)の領域があります。
 紫外線と呼ばれる領域は、200nmから400nmにかけての領域、赤外線と呼ばれる領域は、およそ700nmから1mm(1000μm)で、特に700nm~2500nmは近赤外、 2500nm~50μmは中赤外 50μm~1000μmは遠赤外と呼ばれています。(いろいろな定義があります。)

 紫外線は、人工的には殺菌ランプやブラックライトなどで作っていますし、太陽の光にも紫外線は含まれています。空気やオゾン層のない宇宙空間では、太陽光に含まれる紫外線は非常に強く、夏場の地上の紫外線の500倍もの紫外線にさらされています。これは強い化学作用を起こさせる光で、紫外線に長くさらされた物は色あせしたり、分解したりします。ヒトの肌は、紫外線に当たると、その化学作用を受けた結果と、肌の防護策として「日に焼けた」状態になります。

 それでは、なぜ紫外線に当たると色があせたり、物質が分解したりするのでしょう。
  同じように、先ほど2a-1-2 「目が光と色を感じる仕組み」でも見たように、可視光によって目の中の「ロドプシン」という物質が変化して、目の神経に刺激を伝え、これが色として認識されるということを見ました。 なぜこのように光が当たると物質が変化するのでしょう。
 一方、赤外線は温度の高いものからたくさん放出されています。温度が高いということは、物質の中の分子や原子がより激しく振動したり回転したりして動いているということです。赤外線ランプによるストーブや、赤外線のこたつなどがありますが、このように赤外線は物を暖める性質があります。
 では、なぜ赤外線が当たると物が暖まるのでしょう。

 紫外線や赤外線の外側には、もう光はないのでしょうか。
 これらの外側はもはや光とは呼びませんが、さらに一般的に電磁波と呼ぶ領域があります。
 紫外線より波長の短い領域にはX線やγ 線と呼ばれる電磁波があり、これらも光の仲間です。
 X線とγ 線の波長での明確な区別はありませんが、X線は人工的に作られたもので、1nm付近を中心にした領域、γ 線は核崩壊などの核現象で自然界から放出されるものを指しており、10-3nmを中心にした領域に分布しています。
 また、赤外線の外側には、マイクロ波や電波と呼ばれる電磁波があり、これらも光の仲間です。
 マイクロ波は1mmから1m、電波は1m以上の波長を持った電磁波を指しています。
 X線はレントゲン写真などに使われることでよくご存じのもの、マイクロ波は電子レンジなどで使われています。電子レンジでは12.2cm(2450MHz)の波長のものが使われ、これは水の分子を強く回転させて加熱する作用を持った電磁波です。


 このように、光とは、10-3nmより短い波長を持ったγ 線と呼ばれる電磁波から、波長が100km(周波数3kHz)にも及ぶ超長波(VLF)と呼ばれる電磁波までの領域のうち、ごく一部分を指して呼んでいるもので、この波長の違いから電磁波としての性質に違いがあるため、このように呼び名を変えているのです。

 電磁波とは正確に言おうとすると難しいのですが(コーヒーブレーク 2を参照ください)、ここでは電磁波のうち、限られた領域を指す光の「電界と磁界の波動」としての特性に注目して、この電子との関係、そして色との関係を見てみることにします。

  先ほど光のスペクトルのところで、光の波長と色との関係を見ました。400nm付近が紫、700nm付近が赤でした。この400nm,700nmという数値は、光(電磁波)の波としての波長を表しており、光がそれぞれ400nm,700nm進む間に、電界と磁界の波が1波交番するということです。
 右の図で1周期がそれぞれ400nmの光を紫、700nmのものを赤と感じます。
 ここで、光の速度cは真空中で30万km/s(3億m/s)なので、1秒間に進む間に何回振動するかは計算で求めることができます。
 つまり、振動数ν(s-1)と波長λ(m)の間には
ν・λ(m/s)=c(m/s)
の関係があり、振動数νはc/λと等しくなります。
 例えば400nmの紫の光は
ν=3×108/(400×10-9)=7.5×1014(s-1
 700nmの赤の光は4.3×1014(s-1) となります。

 光はこうした振動数で振動する電界・磁界の波の性質を持っており、物質中の電子(マイナスの電荷を持っている)を振動(励起)させたり、電子雲に包まれた分子を振動させたり回転させたりします。

 2a-3-2 光と電子と色の関係

--- 要点(かんたんにいうと) ---
・光は電子(でんし)に働き(はたらき)かけて、分子(ぶんし)を回転(かいてん)させたり、振動(しんどう)させたり、電子(でんし)を激しく(はげしく)動かしたりします。
・その結果(けっか)、当てた光のうち、分子(ぶんし)や電子(でんし)に働き(はたらき)かけた光は吸収(きゅしゅう)されます。
・分子(ぶんし)や電子(でんし)には、それぞれこの働き(はたらき)かける作用(さよう)の強い(つよい)波長(はちょう)の光があり、これによって吸収(きゅうしゅう)されやすい光が決まっています。
・吸収(きゅうしゅう)されやすい光が吸収(きゅうしゅう)されて、残った(のこった)光によって色が見えてくるのです。
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 マイクロ波は、電子レンジで使われているように強力に物を加熱する作用を示します。これは水分子の回転に強く作用して、物を加熱しています。また、赤外線も物を暖める作用を持っています。
 一方可視光や紫外線は物は暖まらないように感じますが、物質の分解や変質に作用するようです。
 どちらが高いエネルギーを持っているでしょうか。

 一見矛盾するように感じますが、この紫外線や可視光の方が、マイクロ波や赤外線よりも、はるか に高いエネルギーを持っています。
 物を壊すとき、それが小さいほど壊すのには大きなエネルギーを必要とします。大きなコップは手を滑らすと簡単に割れますが、小さいガラスのおはじきは意外と丈夫。もっと小さいビーズ玉は、無理やり壊そうとしなければ壊れません。どんどん小さくなって物質が分子レベルまでいくと、金槌も当たりませんが、これを一度に全て壊すには何か別の方法が必要です。
 マイクロ波や赤外線は、物を加熱しますが、加熱しすぎて分子を破壊しないかぎり、その電磁波単独で分子を破壊することはありません。一方、紫外線はこれらよりもエネルギーがはるかに大きく、加熱する以前に、これが当たった物質を破壊する作用を起こします。
 これがどのようにして起きているか、電子との関係から見てみましょう。

 マイクロ波の領域の電磁波は、物質を取り巻く電子雲にゆるやかに働きかけ、この物質分子を回転させる作用をもたらします。電子レンジでは、水分子に特に強く働きかける周波数のマイクロ波を大量にあびせ、加熱対象に含まれる主に水分子を激しく動かして加熱します。しかし、焦がさなければ、材料が分解してしまうことはありません。
 赤外線は物質を取り巻く電子に働きかけて、この物質分子全体を振動させる作用をもたらします。
 こうして赤外線は物質を直接暖める作用をもたらします。これも加熱しすぎなければ、物質を分解することはありません。
 塩の粒の入ったビンを回転させるには、ゆっくり回せばよく、また、ゆっくり振れば塩の粒は動かずにびん全体を揺することができます。一方、中の塩粒を動かすには早く動かす、つまり高い振動数で揺する必要があります。
 同じようにして、マイクロ波や赤外光よりも振動数の高い可視光や紫外光では、物質分子や原子を構成する電子に直接働きかけます。この結果電子がエネルギーを受けて、原子や分子の中で違う軌道に移ったり(励起)、非常に高いエネルギーを受け取ると、外に飛び出してきます。(光電効果)


























  マイクロ波、赤外光、可視光、紫外光を受けると、電子が動き、そのエネルギーに応じて分子が回転したり、振動したり、分子や原子の中の電子がエネルギー状態を変えたりします。
 上の図は、そうした光や電磁波を受けたときの電子のエネルギー変化を示しています。
 基底状態と励起状態の大きく2つの状態が図示されており、これは物質分子や原子中の電子のエネルギー状態の変化を示しています。この変化は、実際にはこの上にいくつかあるのですが、省略して、2つのレベルを示しています。このエネルギー差は大きく、主に可視光から紫外光のような大きなエネルギーを持った電磁波によってこの状態間の遷移はもたらされます。
 基底状態でもこの図では4つのレベルに分けられていますが、これは分子の振動状態を示しています。振動が激しいほど大きなエネルギーを持ちますが、電子の状態遷移ほどのエネルギーは必要なく、このエネルギーは主に赤外光の範囲の電磁波によってもたらされます。
 また、各振動レベルの間が更に細かく分かれて書かれていますが、これは分子の回転エネルギーを表します。振動よりも更に低いエネルギーで容易に回転し、これは主にマイクロ波の領域の電磁波によってもたらされます。

 さて、このように電子が基底状態から励起状態に移るとき、当てられた光から励起に必要なエネルギーが吸収され、これによって励起に必要なエネルギーに相当する波長(振動数)の光が吸収されることとなります。回転や振動のエネルギーレベルも考慮すると、基底状態から励起状態に移るエネルギーが幅を持っており、電子の遷移エネルギー幅を中心として、幅を持った光の吸収帯が形成されることになります。
 この電子の遷移エネルギーは、物質や原子によって特定の値に決まっており、複数の値を持っていますが、物質に固有の波長(振動数)の光が、ある幅を持って吸収されることになります。

 こうして可視光の領域に吸収帯を持つ物質や原子に光が当たった場合、その光から特有の波長の光が吸収され、吸収されず(透過もせず)反射した光によって色が見えてくることになります。
 これが、2a-2-2 「光のスペクトル」のところで見たような、光の吸収による色となるわけです。
 逆にエネルギーを持った励起状態の電子は、低いレベルに落ちるとき、その差分のエネルギーを、相当するエネルギーを持った波長の光として放出します。

 物質を構成する分子は、いくつかの原子の結合によって成り立っており、原子間の結合はこれらの持つ電子を媒介として成り立っていますから、電子が励起されると別の結合の仕方をもたらしたり、別の原子や分子との結合を生じたりします。これが、紫外光や可視光のような高いエネルギーを持つ光によって、物質が変化したり分解したりする理由で、特にエネルギーの大きい紫外光でその性質が顕著になります。
 なお、光のエネルギーEはプランクの定数hを用いて
 E=h・ν (νは光の振動数)
で表されますから、振動数の高い紫外光の方が可視光よりエネルギーが高く、また、例えば500nmの緑色光は50μmの遠赤外光の100倍のエネルギーを持ち、50μmの遠赤外光は、12.2cmの電子レンジのマイクロ波よりも2440倍のエネルギーを持っていることがわかります。

 以上で、色の見える理由がだいぶ見えてきました。
 しかし、まだ、なぜきれいな色の着いた物質と着いていない物質があるのか、その説明にはなりません。電子が遷移しやすい動きやすいといった性質が違うようですが、どう違うのでしょう。
 また、色が変わるということは、これまでに見てきたようなことがらの何かが変わったらしい、ということは分かりますが、何が変わったのでしょう。
 これを次に見ていくことにします。


 さて、光の話が一段落したところで、光を反射させる鏡のお話に関連して、コーヒーブレーク(1)でも眺めて、頭を切り換えてから次に進むことにしましょう。

 ブレークの後のお話は「2a-5 反射、透過/屈折、吸光」と題して、いよいよ色の変わる手品のタネに少し関連する内容の話に入っていきます。
 ここでは直接の手品のタネ明かしは書かれていませんが、理解するための関連材料として、多少タネ明かしに関係しておりますので、手品を購入されていないお客様は、このページを参照することができません。悪しからずご了承ください。


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